生のまま in 男女
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◇「生のまま in 男女」


「ねえ、今からやりたいんだけど。いいかな?」
 女が言った。湿った室内に声が低く響いた。
「ん、」
 それを聞いて、パソコンに向かっていた男が振り返る。
「何をだ?」
「もう、解るでしょ? 言わせないでよ」
 女が表情を赤らめ、すると、そそくさと長い髪を結ってポ二テを作り始めた。
 心なしか、その仕草がもじもじしているように見える。
 それを見て男は何かを察したのか、こっちも顔を赤くさせるた。
「ええええ。今から、その……やるのか? 時間も遅いし、俺は作業が残ってるんだが……」
「いや。今日はそういう気分なの。お願い」
「お、おう。わかった、っつあ!」
 男は椅子から立ち上がろうとするが、足がつんのめってしまい、その体を思い切りデスクに乗り上げてパソコンに突っ込んだ。酷く動揺しているようだ。
「大丈夫?」
「いあ、大丈夫」
 打った額を押さえる。
「ねぇ。早く」
「お、おう」
 女の言葉を聞いて、男は仕切り直しといった風に表情を固くした。口許をぐっと結び、眉間に力を入れ皺を深くする。その雰囲気は、戦場へと足を運ぶ兵士のように硬質なものへと変わっていた。
「じゃ、じゃあいこうか」
 上擦りながらも、男はなんとか言える範囲の言葉を発した。だが、女の反応は男が期待をしたそれとは違っていた。
「へ? いくって、どこに?」
「えっ」
「えっ」
「あれ、寝室行かないの? ちょめちょめじゃないの?」
「えっ。なにそれこわい」
「ええっ!? 違うの!?」
「違うわよ」
 そう言って、女はパソコンを指差す。
「ほら、朝言ったでしょ。生放送の番組を見るって。だから、パソコン貸してくれる?」
「さいですか。俺はてっきりお楽しみタイムかと思いましたよ」
「今から私がお楽しみなのよ。ほら、どいたどいた」
 しっしと男をデスクからよけると、女は椅子に着いた。男は仕方ない、と頭をぼりぼりと掻く。
「にしてもお前も好きだよな。生放送とか、録画しておけばとも思うのだが」
「ちっちっち。甘いわね。現在進行形で見るからいいんじゃない。だから価値があるのよ。ほら、高校野球とか、翌日にはもう次の試合しちゃってるでしょ? 前日の試合を録画してたところで、見る価値はないってものよ」
「ん、確かにそれは一理あるかもしらんな」
「でしょ? あと生放送に限らず実況も好きよ」
「へえ、俺はあんま意識したことはないが。そんなもんかね」
「そんなもんよ」
「さいですか」
 女は機嫌が良さそうにマウスを動かし、かちかちと音を鳴らす。
「そろそろ始まるわね。あと二分〜」
 その楽しそうな表情を見て、男はぱっと閃いた。自分だけお預けを食らったままなど我慢できるはずもない。
「なぁ」
「んー、なに?」
 パソコンの画面に集中して、やや上の空気味に応える女。
「いやさ、ほら。そんなに好きなら、俺たちもしてみないかな〜なんて」
「へ、何?」
 男の言葉を聞いて、きょとんとして女が振り向く。
「言わせるなよ」
「え?――っ!?」
 やや窮屈な体勢で、男が女にキスをした。
「ん、ちょ、ちょっと待って。いきなりなにするのよ!」
「あ……いや、悪い。今日はその、割とそういう気分なんだ。いまからやりたいんだけど、ダメかな?」
「何を……ええええ!?」
「ダメか?」
「うーん……」
 女はどうしようかとポ二テをいじる。男の表情を見て、顔を赤くさせる。
「じゃ、じゃあ。これ終わってからねっ。いい?」
 男は、まあ仕方ないかな、と肯いた。



   おわり



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